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【第一回ゆりぶん企画】 「花束」 ゆみ


緩やかな坂道を登り切ると、視界が開けて遠くに海が見える。

アブラゼミの鳴き声がけたたましく、煩わしいような、でも少し懐かしいような気持ちになった。

慣れないサンダルを履いてきたせいだろう、足首に鈍い痛みを感じる。かがんで見てみれば、ストラップのところが桜色に染まっている。

早く大人になりたくていつも背伸びばかりしていた私は、ほんの少しの見栄のために、いつも少しだけ高すぎるヒールのものを履いてしまう。

ほんの少しの見栄をはれたのはあなたがいたからだし、ほんの少しの見栄をはらずにいられなかったのも、あなたがいたからだ。

早く大人になりたかった。大人になれば、もっと自由になれる気がしたから。

自由になりたい私は、幼い時からとにかく腰の落ち着く暇のない子供だった。

小学生の時はよく家出したし、中学生になれば学校から逃げ出したし、高校生になればこの街から逃げ出したし、大学生になればこの国から逃げ出した。

逃げ出してはこの場所に戻って来て、そうしてまた次はどこに行こうか考えてばかりいた。私をわくわくさせるのは新天地の存在だけだった。

ただ、私をどきどきさせるのは、あなたの存在だけだったけれど。

 

ほんの少し坂道の上の所で足を休めて、また歩き出す。

歩き出した私を元気づけるかのようにさっと風が吹いて、太陽にやかれた首筋に心地よい。右手に握りなおした花束の包み紙が、かさかさと静かな音をたてた。

ゆっくりと歩みをすすめる私を、3人の小学生がじゃれあうように騒ぎたてながら追い抜いていく。

ああ、夏休みなんだな、とこんがり焼けた小学生達の脛を見ながら私は納得して、それからどんどん遠ざかる彼らのリュックをぼおっと見やる。

中学生の頃、よく途中で授業をさぼっては、荷物も持たずにどこかに行ってしまう私を、あなたは決まって待っていてくれた。

陽が落ちかけた教室で、あなたは机の上に私の通学かばんを自分のかばんと並べておいている。そうして静かに座って窓の外を眺めている。

私が教室に戻ってくると立ち上がって、「おかえり」と言ってくれたものだった。

私の放浪癖に小言を言う事はいくらでもあったけれど、いつでも私を待っていてくれた。でも今思えば、あなたがどんな顔で私の背中を見送ってくれていたのか私は知らない。

あなたに背を向けたわたしは、あなたの表情を見る事なんかできなかったからだ。

 

何度も足を運んだせいで、もうすでに道順はすっかり私の頭の中にしみこんでいる。

坂道からまっすぐ海に向かって進んで、三番目の小路を左折する。

それからしばらく歩くと、十字路になったほんの少し広めの道に出る。

 

 

「ずるいよ」

私は道に一人突っ立って、静かにひとりごちる。

あなたはきっと笑って言うだろう。「待つのはいつだって私だったんだから、一度くらい大目に見てよ。」

確かに私は何度もあなたに見送られ、私があなたを見送ったのは一度きりだけれど。

それでも不公平だと思う。だって、私はあなたに会いに絶対に戻ってくるのに、あなたはもう戻ってこない。

 
 

十字路のコーナーに最近出来たばかりのカーブミラーの近く、あなたが好きだったひまわりの花束を置く。


 

あなたがもうここにはいないから、私はこの場所から動けないでいる。

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