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【第2回ゆりぶん】「彼女のために」 ウメダ ―お題(色)
 
                                                                     
                                                                     
                                             
『彼女のために』



奇妙な女だった。
そもそもは、気まぐれに小指の先で引っかけたような女だった。
その女はいつも何か言いたげに口をまごつかせ、でもそれを言った事はなくて、
あたしが面倒くさがりながら投げつける言葉をいつも静かに聞いていた。
あたしが何度約束に遅れてもその女が遅れることはなく、
どんなにあたしが遅刻してもあたしを見つけた瞬間には花のような笑顔を咲かせ、
(あたしは途中から半ば意地のようにその女を待たせていた)
靴は必ず右からはいて、
風呂では必ず右腕を最初に洗って、
歩くときはいつも右側で、
鞄や服はピンクばかりで、
いつもいつも髪からシャンプーの香りをさせていた。
他で嗅いだ事の無い香りだった。
それはとてもいい香りだった。
 

あたしからしてみれば、
よく分からないしがらみにいつも何重にもとりつかれた、変な女だった。


その女が、ある日突然あたしの前から姿を消した。
いつものように待ち合わせに遅れて行くと、
あの色めき立つような笑顔はどこにもなかった。

あたしは待った。
誰に会う必要もなく、どこに帰る必要もなかったから、その女を待った。
けれど次の日も、その次の日も、その次の次の日になっても、その女は来なかった。
変な女だったから、寂しいとか恋しいとか、そんな風に感じる事はなかった。
だからあたしは笑ってばかりいた。
笑えば笑うほど、あの世界を変えてしまうような笑顔に靄がかかっていくのが分かった。

笑ってばかりいたら、いつの間にかあたしの隣には彼女とは違う女がいた。
いつからいたのだろう。
そいつは猫のように懐に潜り込んできてあたしの家に住み着き、
気まぐれにあたしを抱きしめる。
そして、ねぇ、泣いていいよ、泣きなよ、と繰り返す。
一体何のことを言っているのか分からなかった。
あたしが泣く?なぜ?なんのために?
 

ある日、その猫のような女からあの香りがした。
あのシャンプーの香りだった。
あたしが黙り込むと、その女はあたしの手を握ってふにゃりと笑った。
世界は何か変わっただろうか。
いや。


もっとずっと前から、その香りはしていたのだろうか。
あたしが気付かないふりをしていただけなのだろうか。
しかしそうだとしたら、あたしはどうして気付かないふりをしていたんだろう?


なぜ、どうして、と考えていたら、涙がこぼれた。

あたしの瞳から、彼女のために。


 
ゆりぶん | 19:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
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